動物の歯


【動物の分類と歯】
 地球上に生命が誕生したのは、今からおよそ40億年ほど前といわれています。この間、生命はいろいろな植物や動物に進化し、今では地球上には100万から120万種類の動物がいるといわれています。このうち80万種ほどが、昆虫の仲間ですが、昆虫は歯を持っていません。歯を持っているのは脊椎動物(背骨をもった動物)の仲間の魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類で、この仲間に入る動物はほとんどが歯を持っています。
 歯は動物の種類によって、それぞれ形や本数や生え方が違っているので動物を分類するときによく利用されます。また、化石としても残りやすいので発見された骨の種類の特定や、どのような物を食べていたかの推測や、生活様式の推定などにも利用されます。

《哺乳類の歯》
 私たち人間は哺乳類(乳を飲む動物)という仲間に分類されますが、哺乳類の仲間に入る動物はほとんどが次のような歯の特徴を持っています。
・乳歯と永久歯があって歯が一生の間に二度生える。これを二生歯性という。
・歯の数が決まっていて、切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯の4種類の形がある。(異形歯性)
・歯の根の部分が顎の骨の中に埋まっている。

《爬虫類の歯》
 これに対して哺乳類より下等な、ワニなどの爬虫類の仲間の歯は次のような特徴があります。
・一生の間に何度も生え変わる。(多生歯性)
・すべての歯がほとんど同じ円錐形の形をしている。(同形歯性)
・顎の骨の表面に張り付いている。

脊椎動物だけど歯がなかったり、少しだけしかない仲間もいます。
・鳥類は歯を持っていません。ただし、鳥の祖先といわれる始祖鳥は、化石を調べたところ立派な歯を持っていたことが知られています。
・カメは爬虫類の仲間に分類されますが、歯を持っていません。
・海を泳いでいる鯨は哺乳類の仲間です。鯨の仲間は大きく分けて歯のある歯クジラと歯のないヒゲクジラに分類されます。
・両生類のカエルは上あごにだけ歯があって下あごには歯がありません。
・ウシの仲間(哺乳類偶蹄目)は、上あごの前歯がなく、硬い上唇と下の歯で草をかみ切ります
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【歯と食べ物】
 哺乳類の中にはライオンのように肉だけ食べるもの(肉食動物)、馬のように草だけ食べるもの(草食動物)、人間のようにどちらも食べるもの(雑食動物)などいろいろいますが、食べ物の種類や食べ方によって歯の形はさまざまに変化しています。
 魚の仲間でもえさの種類によって歯の形は千差万別です。つまり食べ物と歯の形には密接な関係があるのです。

 《肉食動物の歯》
 肉をさいたり骨をかみくだいたりするために、すべての歯が鋭くとがっています。臼歯は私たち人間の臼歯の噛み合わせと違って、肉を切り裂くはさみのようなかみ合わせになっている。特に犬歯が良く発達して、敵と戦うための武器にもなります。また、筋肉がよく発達していて顎の力が非常に強いのも特徴です。
 《草食動物の歯》
 臼歯が平らになっていて、草をすりつぶしやすくなっています。肉食動物と違って犬歯はあまり発達していません。草や葉は消化しにくいので、胃や腸に特徴があります。ウシの仲間には、胃が四つあって、一度飲み込んだ食べ物をまた口の中に戻して噛みなおして食べます。臼歯はひき臼のような形をしていて、あごを前後左右に動かしてすりつぶすようにして食べます。くだものを食べる動物の臼歯はつき臼のような形をしていて、くだものを押しつぶすようにして食べます。
 《雑食動物の歯》
 肉食動物と草食動物の歯の特徴の中間の形をしています。つまり前歯は平べったくてはさみのような働きをし、臼歯はうすのように食べ物をすりつぶす働きをします。
 《虫を食べる動物》
 昆虫やクモ、ミミズなどを食べる動物には、歯があるものとないものがいます。歯がある食虫類の臼歯の咬合面(噛み合わせの面)には突起があり、硬い虫をじょうずに噛み砕くことが出来るようになっています。前歯はピンセットのようにかみ合っていて、虫を捕まえるのに都合よく出来ています。

 《魚の歯》
 魚は種類によって、プランクトン・海藻・小魚・サンゴなど食べる餌がそれぞれ違います。そのため、餌の種類に合わせて口の形や歯の形が大きく違っています。食卓にのぼった魚の口と歯を観察してみるのも面白いですね。

【動物とむし歯】
 野生の動物は自然のものを食べているので、虫歯になることはほとんどありません。ところがペットとして飼われている犬や猫は、私たち人間の食べ物や砂糖の入った甘いお菓子などを食べることが多いため、虫歯やシソーノーローなどが多く見られるようになってきました。また動物園に住んでいる動物は、見学者に甘いお菓子などをもらって食べるので、虫歯ができてしまうことが多いのです。動物の歯に虫歯が出来る原因も、私たち人間とまったく同じです。
 ペットの口臭が気になるようなら、獣医さんに診てもらったほうがいいと思います。歯石がいっぱいついてたり、虫歯になったりしている場合が多いと思います。最近は獣医さんがペットの歯石を取ってくれます
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【不思議な歯を持っている動物】
 《常生歯を持つ動物》
 カバは非常に強くて大きな犬歯を持っています。ところがこの犬歯は私たちの髪の毛と同じように一生伸びつづけている歯なのです。常生歯あるいは無根歯と呼びます。ほおっておけばどこまでも長くなっていってしまいそうですが、先のほうから少しずつすり減っていくのでほぼ一定の長さを保つことができます。ブタやイノシシの犬歯、あるいはねずみの前歯やウサギやモルモットの臼歯、象の牙も同じように一生伸びつづけている歯なのです。
 ねずみやリスがいつも何かを食べているのは、極端な食いしん坊なのではなく、食べることによって歯をすり減らし、長さを調整するためだったのです。
イノシシとブタは雑食性の動物です。ブタはイノシシを家畜化したものです。イノシシは、木の根や葉っぱ・きのこ類などの植物や、かえるやねずみなどの小動物を餌にしています。下顎の切歯は地面を掘り起こしやすいようにシャベル状をしています。何でも噛み砕ける丈夫な歯を持っています。
 ウサギの歯並びはネズミとよく似ていますが、上顎前歯は前と後ろ二重になっていて、木の枝の皮をはいで食べたりします。
 ネズミの仲間は上下の中切歯が非常に発達し、他の切歯と犬歯はなくなってしまっています。咬筋(かむ時に働く筋肉)が発達してかむ力が非常に強いのが特徴です。

 《象の歯》
 象は地上にすむ動物の中で一番大きな生き物です。長い牙を持っていますが、あの牙は犬歯のように見えるけれども切歯が長くなったものだそうです。象の牙もカバの犬歯と同じように一生伸びつづける歯です。
 象の臼歯は上下左右に一本ずつ生えていますが、これは臼歯が一本しかないのではなく、一本ずつ交代で生えてくるからなのです。ある期間働いた臼歯は、後ろから生えてくる新しい臼歯に押し出されて前の方に抜け落ちていきます。象の臼歯は上下左右にそれぞれ6本ずつあるので、5回生え変わることになります。
 ゾウはぞうりのような大きな臼歯で1日100キログラムもの草や葉っぱを食べています。

 《クジラの歯》
 クジラは海に住んでいるけど魚の仲間じゃなくて哺乳類の仲間なのです。他にもイルカやイッカク、ジュゴンという動物も海に住む哺乳類の仲間です。でも、歯の形は魚とそっくりです。つまりみな同じような円錐形の歯をしています。しかも生えてくる歯の本数もはっきりと決まっていないようです。
 イッカク(ユニコーンとも呼ばれる)という動物は、頭の真中から1メートルくらいの長い角が生えていますが、この角は左の切歯が変形したものだそうです。

 《コウモリの歯》
 コウモリは空を飛びますが鳥の仲間ではありません。哺乳動物の仲間で、くちばしではなく30本の歯を持っています。体が小さくて、主に昆虫を食べている仲間と、やや大きくて主にくだものを食べている仲間がいます。
 中南米にはチスイコウモリという動物の生き血を食べ物にしている変わったコウモリがいます。ウシやウマなどの動物が寝ているときに忍び寄って、かみそりのように鋭い前歯で動物の皮膚に傷をつけ、舌でなめて血を吸い取ります。臼歯はぜんぜん働かなくなってしまったので退化しています。

 《毒蛇の牙》
 毒蛇は獲物をくわえると牙から毒を送って獲物を倒してしまいます。この牙も歯の一種で、普段は口の中で横向きにしまいこまれていますが、大きく口を開けると起き上がるような仕組みになっているのです。獲物に牙が刺さると牙の中にある管から毒が注入されます。
 下顎は頭の骨にゆるくつながっているので、顎を180度近くまで開けることが出来るようになっています。左右の下顎は先端の部分で筋肉でつながっていて、広がるように出来ています。また、頭の骨もいくつかに分かれていて、それぞれの骨に筋肉がついて広がるようになっています。このような構造なので自分の胴体より大きな獲物を丸呑みすることが出来るのです。
 蛇は舌でにおいや空気の振動を感じ取ります。

 《恐竜の歯》
 恐竜は今からおよそ、2億年前から6500万年前の間にさかえた、巨大な爬虫類の仲間です。本や雑誌で、恐竜が生きていた時代の想像図をよく見ますが、化石として出土する恐竜の骨格や歯の形からその当時の生活の様子が想像できるのです
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【闘うための歯】
 動物の歯は食べるためだけではなく、なわばり争いなどの時に闘うための武器としても重要な働きをしています。そのため、メスよりもオスの歯が大きく出来ている動物も多くいます。
 サルの犬歯は、メスではとなりの切歯と同じくらいの長さしかありませんが、オスの犬歯は長くて大きく丈夫にできています。ブタやイノシシもサルと同じようにオスの犬歯がメスよりも長くなっています。ペットとして飼われている猫や犬もライオンと同じ肉食動物の仲間なので、獲物を取るために犬歯が良く発達していて、闘うための武器の役目をしています。
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