”スナック「しのぶ」”
「初めてのお客さんに『ホームページを見て来たんだ』と言われるともう嬉し
くて嬉しくて手を叩いて喜んでしまう。もう大サービスしたくて・・・」。大曲
市から東へ約12キロ。奥羽山脈の麓に開けた千畑町は純農村地帯。スナック
「しのぶ」はその町中心部の役場後ろにある。瀟洒な家が立ち並ぶ住宅街の一画
に土地を求めて1995年に移転オープンした。
おばこネット会員の中で唯一の「スナック」ページだ。ページを運営している
のは畠山しのぶさん(27)。しのぶさんはお母さんの初子さん(59)と二人
でスナックを経営している。ホームページは「お店の宣伝になれば・・・」と昨
年4月に独自で立ち上げた。アクセス数はまだ1500件台と少ないが、秋田市
や角館町、大曲市などから「ホームページを見ていて一度は来てみたかったんだ」
と飲みに来てくれるお客さんが次第に増えてきた。中にはメールで店の場所を問
い合わせてくるお客さんも。
「本当にホームページを見て来たんだと言われると初めての方でもずーと前か
ら知っているような親密感が沸いてくるから不思議。それに嬉しくて嬉しくても
うたまらない」。しのぶさんは両手を目元に寄せてすり合わせるようにしてはしゃ
いだ。母の初子さんは「家のお客さんと言えばこの町の人を中心に太田町や六郷
町だけでしょう。それが最近ではとんでもない遠くからまでお客さんが『インター
ネットを見て来たんだ』というからもうびっくり。私はこんな田舎者だから初め
てのお客さんだと緊張してしまって。でも話してみるとみんないい人ばっかり」
と戸惑いながらもインターネットがもたらす不思議な人と人との出会いに感動す
る。
お店はカウンターが8席、ボックス席20席、それに6畳半の座敷が二間合っ
て宴会なら50人は入れる。友だちの家でパソコンをいじっているうちにいつの
間にか馴染んで、「お店の経理に役立てようかな」とパソコンを購入した。そし
てインターネットを利用して様々なホームページを見て遊んでいるうちに「自分
でも持ちたい」とホームページビルダーを購入。独学でホームページを作った。
背中まで伸びた長い髪。濡れたような黒い瞳。その黒い瞳が良く動く。いろんな
人と話せるのが好きで20歳からお母さんの手伝いとしてカウンターに立った。
ものごとにこだわりのない明るい性格のようだ。カラカラと良く響く声で笑う。
「ホームページを見て来たんだ」と言うお客さんとは「携帯電話番号を教え合う
ような感覚でメールアドレスを交換し合う」。翌日はそのお客さんから必ずと言っ
ていいほどメールが届くが、なぜか「ああ。しのぶ。二日酔いだー。辛いよー」
ばっかり。「私には色気がないのよね。だからだれからもデートのお誘いが来な
いもの」。「そうかな。今夜は誘惑も兼ねて来たのに」。こちらも調子に乗って
取材も脱線したが「えー。アハハハッ」。27歳。すっかり大人の雰囲気を持っ
たしのぶさんは大きな声で笑って上手に気をそらす。
ページは季節ごとに更新している。今は夜空に舞う粉雪と大きなお星さま、そ
して満月の下にたたずむ「スナック『しのぶ』」が、不夜城のように浮き上がっ
た幻想的な表紙となっている。取材に行く前にしのぶさんのホームページをのぞ
いたが、写真で見たカウンターが現実の物として目の前にあると不思議な感覚に
陥る。夢の中で見た仮想空間が現実になってしまうからだ。そのせいだろうか。
こちらも初めての出会いだったが、もう何年も前からの知り合いのような親しみ
が沸く。いや。しのぶさんと直接会ったのは初めてだが、しのぶさんには「秋田
県南日々新聞」への情報提供で一度お世話になっている。電子メールで「私の知
り合いの男性に運転免許証の全ての種類を持っている方がいます。ニュースの材
料になりませんか」と話題提供をして下さっている。
「インターネットはまだ家庭にはそれほど普及してないから電子メールでの予
約は少ないけど、きっと将来はメールでお店の予約が入るようになると思う」と
先を読む。町内の誘致企業から中国に派遣された社員が「中国でしのぶさんのホー
ムページを見つけた時の嬉しさはなかった。遠く離れていてもインターネットが
あると故郷と直結していると思ったよ」と帰国して直ぐに飲みに来てくれたお客
さんもいる。
取材を終え、生ビールで乾杯したら母の初子さんが元気な声で寄ってきて「色
気も食い気もないけど食べて。どんどん食べて」と料理と漬物をカウンターに並
べた。料理自慢のようだ。漬物をつまんだ。口中に香ばしい味が広がった。「う
まいべー」「ウン。おいしい」。湯豆腐をつまみに生ビールをどんどん空にした。
山と田んぼしかない田舎のスナックが秋田市や横手市、大曲市などからも客を呼
ぶ。インターネットは距離をどんどん縮めてしまうようだ。「ホームページを更
新する時は子どものような気分になります」。背中まで伸ばした長い髪。濡れた
ような黒い瞳。夏はゴルフ、冬はスノーボード。そして英会話の勉強から通信教
育で書道も習っていると言うしのぶさん。「当面は恋なんて縁がないみたい」。
ウソか本当かは分からないが、しのぶさんは子どものような笑顔で笑い「ひたす
ら明るいだけのお店です」を強調した。
田んぼと山しかない田舎のお店でもインターネットを利用することによって東
京や大阪、札幌や仙台などの大都会とも結ばれ、お客さんを呼ぶ。しのぶさんは
そんな時代を先取りしようとしていると思った。「ホームページを作ったからと
言ってこれが直ぐにお店の売り上げにつながるなんては思わなかった。それより
私のホームページを見てくれる人がいればいいなーでした」。しのぶさんは欲張
らなかった。だから「子どものような遊び心でのホームページ挑戦でした」と言
う。それでも今では母と大曲市に出掛けたりすると「あれ。しのぶさんでないか」
と声を掛けられる。インターネットがジワリジワリと新しいお客さんを捉えよう
としている。いつかまた足を運びたい。そんなムードの家庭的な温かさを持つお
店だった。
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