口の中をのぞいてみよう


 鏡の前で大きな口をあけて自分の口の中をのぞいて見ましょう。口の中はどんな構造をしていて、それぞれどのような働きをしているのでしょうか。
 みなさんが最初に思い浮かべるのは「ご飯を食べるため」ということだと思います。もちろんそれが一番大切な働きですが、実はそれ以外にも重要な働きをしているのです。
・呼吸をするため…口は鼻とともに気道としての働きもしています。安静時にはほとんど鼻で呼吸をしますが、運動の後などは、はあ〜はあ〜と口で多くの空気を吸い込みます。ただし、いつも口で呼吸をしていると、口の中が乾燥し、歯肉に炎症を引き起こしたり、いろいろな病気の原因になったりすることがあります。
・言葉を話すため…いろんな人と言葉を介して会話をし、コミュニケーションを取ります。きれいな発音をするためには、後で述べる唇や舌や歯が重要な働きをしています。
・顔の表情を作る…顔の中における唇(口)の大きさや形は顔の形を特徴付ける上で大きなポイントになります
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【唇と頬の機能】
 唇は、ほっぺたと協力して色々な働きをします。
・食べ物を食べる時、唇をしっかり閉じて口からこぼれないようにします。
・食べ物を奥歯の噛み合わせの面において噛み砕きやすいようにするために、細かな動きをして食べ物を移動させます。
・唇は皮膚感覚が敏感で、熱いお茶や冷たいアイスの温度を感じ取ります。また触覚も鋭敏です。
・ストローで飲む時は、唇をしっかり閉じて陰圧を作り飲み物を吸い込む働きをします。
・歯の内側にある舌と、外側にある唇、頬がバランスを取りながら歯並びを良くします。
・唇をしっかり閉じて、口の中に食べ物や水を保持します。
・言葉を話すために働きます。たとえば、[ま]行の発音する時、上下の唇をくっつけずに発音するのは難しいはずです。
・愛情表現も唇の重要な働きです。

 唇は、への字にしたり、とんがらせたり、丸くしたり、いろいろな形に動かせます。これは唇の周りにある口輪筋という筋肉の働きによります。顔の皮膚の内側にも表情筋という、いろいろな小さな筋肉がたくさん付いていて、その筋肉が動くことによって、笑った顔や、怒った顔や、悲しそうな顔の表情が出来上がる仕組みになっています
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【舌の機能】
 舌は柔らかくていろいろな形に変化しやすく、自由に運動が出来ます。これは舌の中身がいろいろな方向に走る筋肉で出来ているためです。
 舌は次のようないろいろな働きをしています。
・ご飯を食べるときのことを想像してみましょう。私たちは口の中にご飯を入れたあと歯と歯をかみ合わせてご飯を食べます。その時、歯と歯の間にごはんつぶを運ぶ役目をするのが舌なのです。
・しばらくごはんをかんでいると、ごはんが柔らかくとろとろになってきます。これは細かくなったごはんが唾液とまじりあうためです。このように食べ物と唾液を混ぜ合わせるのも舌の働きです。
・とろとろになったご飯を飲み込むときにも、舌は大事な役目をしています。病気や事故で舌が動かなくなってしまった人は、食べ物を飲み込めなくなってしまったりすることもあります。
・食事が終わった後、小さな食べかすが口の中に残っていたり、歯と歯の間にはさまっていたりする時がありますが、そんな時みなさんはどうしているでしょう?うがいをしたり、歯みがきをするのが普通ですが、舌の先で取ってしまおうとすることはないですか?そんなことが出来るのも舌のおかげです。
・ご飯を食べるとき、甘かったり、しょっぱかったり、苦かったりという味を感じるのは「味蕾(みらい)」という味を感じる細胞の働きのおかげですが、舌の表面にはその細胞がたくさんあって、味を感じ取るための重要な働きをしています。
 私たちが感じる味は「甘味・塩味・うま味・酸味・苦味」の五原味に分類されます。甘味は体を動かすエネルギーの味、塩味は体の塩類を調整する味、うま味は体を作るたんぱく質と関係した味で、これらは私たちが生まれながらに求める本能的な味といえるでしょう。それに対して、酸味は腐敗に関連する味、苦味は毒物に関連する味で、こちらは体験を重ねないとおいしく感じられない味です。そして酸味や苦味は野菜や果物に多く含まれる味なのです。小さいうちにこれらの味に慣れておかないと、なかなか野菜が好きになれないのはこのためです。
・言葉を話す時も舌はとても大切な役目をしています。
「た」という音を発音してみてください。何回も発音して舌がどのように動いているか考えてみましょう。舌の先が上あごの前の方に一回くっついてから、勢いよく開くと「た」という音になったと思います。それでは今度は舌を動かさないで「た」という発音が出来るかためしてみてください。きっと出来なかったと思います。同じ様に、「さ」・「な」・「ら」などの音も舌がないとじょうずに発音できません。
・歯並びをきれいに維持しているのも舌の働きです。唇や頬が外側から歯を押す力と、舌が内側から歯を押す力がちょうどよくバランスが取れてきれいな歯並びが出来ています。
・歯が一本もなくなってしまうと、総入れ歯を入れなければなりませんが、舌は入れ歯を安定させる働きもします。

 夏の暑い日に、犬は舌をなが〜く出して「ハアハアハアハア」と速い呼吸をしています。実は犬は体からほとんど汗をかかないので、暑い時にああやって舌から体の熱を逃がしているのです。人間の舌とはちょっと違う役目をしています
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【歯の機能】
 人間の歯には子供の歯(乳歯)と大人の歯(永久歯)があって、ちょうど小学校に入っている間に全部の乳歯が永久歯に生え変わる(歯の交換)ようになっています。

<歯の名前を覚えましょう。>
 乳歯は歯の形と位置によって次のように名前がついています。「乳中切歯・乳側切歯・乳犬歯・第1乳臼歯・第2乳臼歯」。同じように永久歯は「中切歯・側切歯・犬歯・第1小臼歯・第2小臼歯・第1大臼歯・第2大臼歯」と呼ばれます。歯医者さんでは乳中切歯のことを「A」、となりの乳側切歯を「B」と呼ぶこともあります。順に奥の方に「C」「D」「E」と呼ばれます。また永久歯の中切歯は「1番」と呼ばれています。順に奥の方に「2番」「3番」・・・と呼んでいきます。
第3大臼歯は生えてこない人も多く、また生えてくる年齢も20歳〜30歳とかなり遅い人が多いようです。また第3大臼歯の事を[親知らず歯]あるいは[智歯]とも呼びます。  乳歯は全部で20本、永久歯は第3大臼歯も含めると全部で32本生えてきます
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<歯はいつから生えてくるのでしょう?>
 最初に生える歯は、下顎乳中切歯で、生まれてから六ヶ月目ごろ。その後順番に乳歯が生えて、2才頃に全部生えそろいます。永久歯は第2乳臼歯の後ろに第1大臼歯と呼ばれる歯が6才頃に生えてきます。そのためこの歯は「6才臼歯」とも呼ばれています。乳歯は小学校に入学する頃から、卒業する12才頃までの間に前の方から順番に生え変わります。
 乳歯が最初に口の中に見えてくるのは、生後6ヶ月頃ですが、顎の中で乳歯の芽が出来始めるのはもっともっと早い時期なのです。胎生6週頃、胎児の身長がまだ11o位の頃に最初に生えてくる「A」の芽が出来始めるそうです。胎生4ヶ月目頃から、石灰化という現象が始まって、硬い歯が少しづつ作られていくのです。 永久歯が最初に口の中に顔を出すのは6才頃(6才臼歯)ですが、6才臼歯の芽も胎生4ヶ月頃には作られ始め、ちょうど生まれる頃から石灰化が始まります。こうして徐々に歯の形が作られていき、歯の頭の部分(歯冠部)が完成するのが3才頃、それから約3年程してやっと口の中に顔を出すのです
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<歯の形と働き>
 人間はいろいろな形をした歯を持っていますが、これは、わたしたちの食べ物とも関係しています。人間は肉も食べるし、野菜も食べる雑食性といわれる食事をする動物だからなのです。肉食のライオンと、草食の馬では、まったく違う歯の形をしていいます。
 前歯と奥歯では違う形をしています。これは、それぞれの歯が持つ役割と関係しています。
 切歯は薄くひらべったくて先端が鋭くなっていて、ちょうど大工さんが使うのみのような形に似ています。包丁の形にも似ています。また上と下の切歯がかみ合うとはさみのような形にもなります。このように切歯は食べ物を噛み切る役目を持っています。  犬歯は切歯よりも長く、太く、先のとがった円錐形をしています。この歯は食べ物を食いちぎり、引き裂く働きをしています。  奥歯はかみ合わせの面に少し凹凸があるけれども、臼のような形をしているので臼歯と呼ばれています。この歯は食べ物を小さく砕き、そしてすりつぶし、飲み込みやすくする働きをしています。
 もしも奥歯が1本なくなってしまったらどんな影響が出てくると思いますか。下顎の6歳臼歯を一本失うと、食べ物を噛み砕く力は全部の歯がそろっているときに比べて60%にも落ちてしまうといわれています。また一本歯がなくなると、隣の歯が動いてきて歯並びも悪くなってしまったりします。一本ぐらいといわずに大事にしなければいけません。

 歯には言葉を話すための役割もあります。特に前歯が重要で、もしも歯がなくなってしまったら、はっきりした言葉を話すことができなくなってしまいます。総入れ歯を入れてるおじいちゃんやおばあちゃんが入れ歯をはずして話しているのを聞いたことがある人は前歯がどのように働いているか理解できると思います。言葉を話すには歯のほかに、舌や唇も重要な働きをしているのでいろんな音を発音してためしてみましょう。

 人間の顔は、ほぼ左右対称に出来ています。歯の中で一番目立ちやすいのは上顎の中切歯ですが、この歯が右と左の大きさがそろってバランスが取れていないとヘンにみえます。歯は顔をきれいに見せる働きもしているのです。
大昔の人は、わざと前歯を抜いたり削ったりしたようです。この風習は世界中で確認されていますが、日本でも石器時代や縄文時代の人骨の調査から、下顎前歯や上顎犬歯を抜歯する風習があったことが確かめられています。その目的については、装飾・儀式・刑罰・医療などいろいろ考えられていますが結論は出ていないようです。麻酔もなかった時代に歯を抜くのは相当の苦痛だったと思いますが、現代においては前歯が欠けてると本当にかっこ悪いですよね。

<「歯」のつく言葉>
「歯を食いしばる」という言葉を知っていますか?何かを一生懸命がんばるときに使う表現です。重い荷物を持ち上げる時やスポーツをしている時など、力を出す瞬間に歯を食いしばると大きな力を出しやすくなります。奥歯一本には、それぞれの人の体重と同じぐらいの力がかかると言われています。歯が丈夫かどうかは、運動能力にも影響するといわれているので、スポーツ選手になりたいと思っている人は歯を大事にしなくてはいけません。
 歯と口は私たちが人間として社会生活を営む上で、非常に大きな役割を担っています。そのため「歯」あるいは「口」という字が入った言葉がたくさん使われています。「歯がたたない」「歯が浮く」「歯に衣を着せない」「歯の根が合わない」「歯切れが悪い」「切歯扼腕」「没歯」「口が軽い」「口車に乗る」「口を割る」「口がすべる」・・・など日常生活で使われている言葉が他にもたくさんあります。

「明眸皓歯」は「澄んだ瞳と白い歯」という意味で、美人を表す言葉として使われますが、日本では古くから「お歯黒」という歯を黒く塗る風習がありました。古くは男女とも上流階級の間で用いられていたようですが、やがて女性だけのものになり、江戸時代に入ると既婚女性のしるしとして広く庶民に普及していたようです。この風習は明治時代まで続きました。お歯黒の主成分はタンニン酸第二鉄というもので、これには虫歯を予防する効果があったといわれています
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<歯の中はどうなっているのでしょう?>
 歯が歯茎の中に生えている様子を半分に切ってみると、歯の外側には1mmほどの厚さのエナメル質という組織があります。これは半透明の白い色をしていて、人間の体の中で一番硬い組織ですが、反面少しもろい性質があります。エナメル質の内側には象牙質という組織があります。これはエナメル質ほど硬くはありませんが、それほどもろくなく丈夫です。一番内側には歯の外形とほとんど同じ形をした空洞があります。この中には血管や神経が通っていて、歯の根の先端の根尖孔というところで体の中の神経や血管とつながっています。歯を支えているのは、歯槽骨という顎の骨の一部で、その上を歯肉という柔らかい組織がおおっています。

<歯のレントゲン写真>
 歯を、レントゲン写真で見ると、中央部に黒くストローみたいに見える部分にむし歯になったときに痛みを感じる神経が入っています。
虫歯になると「痛み」を感じますが、この「痛み」を感じることが、とても大事なことなのです。私たちの体は、ちょっとした小さなきずであっても痛みを感じます。これはけがが大きくなって人間の体が強いダメージを受けないようにするための警告なのです。つまり人間の体を健康に保つための大事な仕組みの一つなのです。歯にも同じ仕組みが働いていて、まだ気がつかないちょっとしたむし歯でも冷たい水がしみたりして、むし歯ができてきたことを教えてくれます。
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